事業立ち上げ1歩目の落とし穴:起業家が陥る失敗の型[志醸成期]

事業立ち上げ1歩目の落とし穴:起業家が陥る失敗の型[志醸成期]

成功の理由は人それぞれ。だが失敗の理由には共通点がある──。

若くして起業家としてのキャリアをスタートさせてから、複数の事業立ち上げ・売却を経験するGOB Incubation Partners(以下、GOB)共同代表の山口高弘(やまぐち・たかひろ)はこう語ります。「起業家が陥る失敗の型」と題した本連載では、事業立ち上げのプロセスを7つに分類し、それぞれの場面で起業家が陥りやすい失敗を生々しく綴ります。

*本連載は1月31日に開催したクローズドイベントの内容を記事化したものです。

[図解]スタートアップの事業成長プロセス

この連載では、スタートアップの事業成長プロセスを上図のような7つの大プロセスに整理します。それぞれの時期を詳細プロセスに分類した上で、事業成長の過程で起こる確率の高い失敗を解像度高く解説します。

今回の記事では事業スタートの1歩目「志醸成期」を見ていきます。「世の中に対して何を届けるか、何を目指すか」を考える段階です。

 

GOB共同代表の山口高弘

Step1「何かやりたい」期によく起こる失敗

失敗:相談相手を間違え、否定をくらう

「何かやりたい」と思い立った時、最初にやりがちなのが「相談相手を間違える」というミスです。

多くの人は保守的ですから、新しいことをやろうとすると「何のためにそれやってんの?」「やめとけよ」と言います。私の初めての起業時には、300人に話して、全員に「やめとけ」と言われました。もちろん彼らは悪い人じゃないですが、新しいことに対してセオリーや常識を振りかざしてくることがあります。

そこで大切にしたいのが「ビジョンを大切にしたまま勝つ」というスタンス。

これは私やGOBが大切にしている基本思想の一つでもあります。そのための知恵をくれる人はすごく少ないですが、まず相談するならぜひそんな人を探して、話を聞いてみてください。

失敗:目の前の現象を問題視して、奥を見ない

「これ問題だ」と思ったことのほとんどは実は問題ではありません。起業家のメンタリングをしていても、問題じゃないことを問題だと誤認してしまう失敗は非常によく見かけます。

日常で起こりがちな例で説明します。例えば自分が大学のテニス部の部長だったとしましょう。「大会で勝つために4月に新入部員を50人集めた。でも夏には半分の25人になってしまった」というのは問題でしょうか? これは一概に問題ということはできません。

問題かどうかは目的から遡って考える必要があります。仮に「インカレで優勝する」ことが目的なら、練習について来れない部員が減って、密度の濃い練習ができた方が良い。冷酷だとかいう感情の話ではなく、目的から考えないと問題かどうかは判断できないということです。

単なる目の前の現象を問題と誤認してしまい、無駄な労力を割いてしまうのは事業初期によくある失敗です。

失敗:「前職でやっていたこと」から事業を構想

「前職での経験をベースに何か事業を始めよう」とするのは自分の志よりもやれること重視の考え方ですよね。もちろん悪くはないですが、このような事業は人々の共感を生みにくくなります。

「前職でやっていたこと」ではなくて「前職時代に温めていたこと」を事業にするのが良いでしょう。

Step2「事業のテーマがある程度決まる」

失敗:原体験を欠いたテーマ設定

事業のテーマを決める時に、原体験を欠いたテーマを設定してしまうというミスがあります。

最近だと、SDGs(*国連が定める持続可能な開発目標)の表を見てその中から事業テーマを決めるようなやり方は後に問題を引き起こします。なぜやっているのかを自分ゴトとして説明ができなくなるという問題です。同様に、他の人のテーマをもらい受けるのも難しい。うまくいきそうなテーマをもらって自分も挑戦してみたら、意外とうまくいかないものです。

なぜ「自分ゴト化」できないテーマが問題なのか。ひとえに、事業が困難なタイミングで粘れないからに尽きます。今やっていることが、何のためにやっているのかという自分の体験に紐付いていないので、いざという時に踏ん張りきれないんです。

Step3「解決したい課題がいくつか浮かび上がる」

失敗:「課題は顧客が持っている」との勘違い

テーマがある程度決まって、解決したい課題を深掘る時にも気をつけなければいけないミスがあります。

それが「課題は顧客が持っているという勘違い」。

顧客のためにやる──。これは一見尊いように聞こえますが、顧客からすると余計なお世話である場合も少なくありません。顧客だけを見つめていてもダメです。顧客の本音(求めていること)と、自分の本音(こんな社会を作りたい、こんな価値を生み出したいという自分の感性から生み出された思い)が重なった部分にこそ解があります。

例えば、「習い事は杓子定規で子供たちは楽しめていない」という顧客(親)の問題意識があるとします。しかし、親と子が抱えている問題を解決しようというだけでは、よいものは生み出せません。

自分としては、「子どもは、特に未就学時期は徹底して遊ぶべきである。アソビゴコロが何よりも重要」と考えているのであれば、「杓子定規で楽しめていない子供に対して、アソビゴコロ満載の習い事を届ける」というのを課題としてセットするイメージです。

相手と自分が重なるところでないと本気でその事業を実現しようとは思いません。徹底的に相手のことを知ると自分との共通点が見つかってくると思います。

失敗:社会や市場を見て、課題を見出す

ありがちですが、社会と市場を見て課題を探し出す、これもまずいと思います。先ほどのSDGsの話と近いですが、課題は市場ではなく、大切な1人の中にこそ見出されるものです。

1000円カットでおなじみの「QBハウス(キュービーネットホールディングス)」は、創業者の小西国義さんが「もっと短時間で手軽に髪を切りたい」という自分の体験から作ったサービスです。同様にソニー創業者の盛田昭夫さんは、飛行機での移動中、隣の先輩が音楽を聴きたいというので、じゃあ聴かせてあげようということで、ウォークマンを作った。

ビジネスは誰かのために作られるものなので、マーケットを攻略するとか市場を取るというとこからは始まらないことを認識してください。過去の優れたアイデアは実在の誰かを助けることをきっかけに生み出されています。

Step4「課題を絞り込む」

失敗:体感知の欠如

さまざまな課題が見つかったとします。その中からそれを絞るタイミングが来ます。ここで起きるのが体感知の欠如です。

実際にその課題で困っている人がいることはわかる。だけど現場でどんなことが起きているのか、どうしたらそれを解決できるのかはその現場の中に自分が入ってみないと見えてこないものです。

私の初めての起業時、「人は群れて暮らすべきだ」と言って複数の家族が共同で暮らすシェアハウスを検討していました。群れて暮らしたらみんな幸せだって。でも実際にはケンカは起きるし、トイレットペーパーの切り方が汚いとかで争いが起こる。全然幸せじゃない!って(笑)。

こういうのはやってみないとわからない。やってみた上でこの課題を解くべきだというのを体感できているかどうか。これがないと、課題を絞り込んだ後に苦労します。

Step5「生み出したい社会の状態が明確になる」

失敗:メタ認知の欠如と言語化のズレ

ここら辺までくると、自分がその事業を通じて生み出したい社会の状態が明確になります。ここで非常に難しい問題が「メタ認知の欠如と言語化のズレ」。

自分がやろうとしていることは俯瞰的に認識できていないと、他の人には説明できません。多くの人は「何をやろうとしてるの?」と聞かれた時に説明に窮することになります。

この時に「説明に窮するということは自分がやろうとしていることはイケてないんじゃないか」と誤解してしまうことがありますが、それは間違いです。説明できる部分だけを切り取ることになり「説明できる=“普通な”ビジネス」ができあがってしまいます。

説明できないからこそ新しいのであって、無理に言語化する必要はありません。無理な言語化は「あれ、やりたいことと全然違うんだけど……」と後々の自分をむしばみます。

かといって言語化が必要ないわけではありません。俯瞰的にみてその重要な点を漏らすことなく表現する必要があります。その際は、いきなり大衆に投げかけてフィードバックをもらうのではなく、信頼できる、意図を汲んで表現を代わりにしてくれるような人物と少数で対話しながら進めていくことを勧めます。

失敗:リーダーとメンバーの体感知のズレ

これは、私がシェアハウスで起業した時に体験した失敗です。当時、メンバーとして集まってくる人は若い大学生とか、家庭で苦労をしてこなかったメンバーが多かったんですよ。

そうすると、メンバーのほとんどは「このままの単位の暮らしでは家庭が崩壊してしまう。だから群れて暮らすべきだ」とかって言っても体感として理解できないんですよね。

私とメンバーの共体験のズレによって、言っていることが伝わらないみたいなフラストレーションが溜まってしまい、チームを一旦ストップしました。無駄とは言いませんけどだいぶ痛かったですね。


次回は、実際に事業アイデアを煮詰めていく「アイデア期」の失敗を見ていきます。

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山口高弘(やまぐち・たかひろ)/GOB Incubation Partners共同代表
元プロスポーツ選手、19歳で不動産会社を起業、3年後に事業売却。それ以外にも複数の事業を起業・売却。その後、野村総合研究所に参画しビジネスイノベーション室長就任。2014年、GOB Incubation Partnersを創業。現在、起業支援インキュベータとして、企業内起業においても多くの事業・サービス開発に携わる。また、GOB Incubation Partnersでは主に若い世代がイノベーションに挑戦するためのマインドセット創り、事業化支援、キャンプ等までも実施している。内閣府若者雇用戦略協議会委員など政府委員就任歴多数。著書多数。

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