心をつかむ“平凡”なサービスは“非凡“なアイデアからしか生まれない:起業家が陥る失敗の型[アイデア期]

心をつかむ“平凡”なサービスは“非凡“なアイデアからしか生まれない:起業家が陥る失敗の型[アイデア期]

成功の理由は人それぞれ。だが失敗の理由には共通点がある──。

若くして起業家としてのキャリアをスタートさせてから、複数の事業立ち上げ・売却を経験するGOB Incubation Partners共同代表の山口高弘(やまぐち・たかひろ)はこう語ります。「起業家が陥る失敗の型」と題した本連載では、事業立ち上げのプロセスを7つに分類し、それぞれの場面で起業家が陥りやすい失敗を生々しく綴ります。

*本連載は1月31日に開催したクローズドイベントの内容を記事化したものです。

[図解]スタートアップの事業成長プロセス

この連載では、スタートアップの事業成長プロセスを上図のような7つの大プロセスに整理します。それぞれの時期を詳細プロセスに分類した上で、事業成長の過程で起こる確率の高い失敗を解像度高く解説します。

前回は志(=生み出したい社会状態)を決めるタイミングで起こりがちな失敗を見ました。今回は「アイデア期」での失敗を見ます。

前回[志醸成期]の記事はこちら>

 

GOB共同代表の山口高弘

Step1「生み出したい社会を実現するためのアイデア出し」

失敗:目の前に凡庸なアイデアの山

志が決まったら、それを実現するための事業アイデアを出していきます。

すると直面するのは、凡庸なアイデアしか出ないという問題。

「凡庸なアイデアじゃダメなんですか? 『Uber』も『AirBnB』も『Amazon』も、よくよく見るとそんな斬新じゃないですよね?」

こんな声もあるかもしれません。確かに、Airbnbは人の家に泊まれるだけ、Uberはタクシーが来るだけと言えば、それだけです。一見すれば普通のアイデアだと思うかもしれませんが、実はこれらのビジネスは、マーケットという保守的な顧客が大半を占める場に適応させた結果、最終的に現れた形態なのです。元々はもっと荒削りで革新的だったものが、戦略的に丸くなっていると思ってください。

多くの人は、今までにない斬新なものを受け入れにくいため、アイデアはマーケットに合わせて何度も調整を繰り返します。つまり、アイデアが世に出る段階では「今までのアレと比べてコレの方がいいな」と既存のプロダクトと比較できるレベルまで普通”になってないといけないのです。

 

今ではマーケットに受け入れられている「Uber」も元々は革新的なアイデアだった。

もともと超革新的だったアイデアがマーケットに出る時には普通になる。ということは、元のアイデアが普通なら、それは普通以下のプロダクトになってしまいます。

ですから、「頭がおかしい」と言われるくらいに革新的なアイデアじゃなければ優れたプロダクトにはなりえません。

非凡なアイデアの生み出し方の具体的な手法は、以下を参照してみてください。

高解像度スタートアップガイドPart2“Wild Ideaの生み出し方”>

失敗:アイデアではなく、単なる意見になっている

「こんなことをやりたいです」を、そのままアイデアであると誤解している人が多いように思います。

明日にでも作り始められないものをアイデアとは呼びません。例えば観光客を呼び込むために人気アイドルのCMを作ります、というのはアイデアではなく“ただの意見”です。

アイデアとは、アウトプットのイメージが鮮明で、実行に向けた要素を可視化できているものを指します。

アイデアは試作と実験を通して価値を見極めて磨くものですが、意見では、試作も実験もできず、事業を前に進めることができません。

失敗:自分の「やりたい」が薄いアイデアの山

「課題解決、課題解決、課題解決……」と考えていくと、ロジカルにアイデアを出してしまいがちです。その結果、自分のやりたいことと離れてしまうことも少なくありません。

自分が今すぐにでもやりたいと思えないものを選ぶのはオススメしません。

なぜなら、アイデアを磨くために必要な最重要の要素の一つが、作り手の美意識やこだわりだからです。美意識やこだわりを欠いたアイデアは、凡庸なアイデアの原因になります。

Step2「深めていくアイデアの種が決まる」

失敗:価値が込められていないアイデアを選ぶ

「価値と直結するアイデア」とは「ユーザーが欲しい価値が込められている」アイデアを指します。

そんなの当たり前じゃないか、と思うかもしれません。しかし、ユーザーが求める価値が込められていないアイデアは、意外にも多いものです。

少し難しいので、例を挙げて説明しましょう。例えば、カメラマンと写真を撮ってもらいたいユーザーのマッチングサービス。「カメラマンが好きな時間にあなたのもとへ来て撮影してくれる」のは素晴らしい価値ですから、これはとても良いサービスのように思うかもしれません。

しかしこの場合、ユーザーに「カメラマンがいつでも来てくれる」という価値を提供しているのは、このマッチングサービスではなく、カメラマンである点に注意が必要です。

マッチングサービスが提供してるのは検索や予約のしやすさなどの体験です。「カメラマンがいつでも来てくれる」ことはサービスの価値ではありません。これが、価値に直結しないサービスを提供してしまっているということです。

Step3「アイデアの具体化」

失敗:常識という固定概念に影響され、盛り込みすぎのアイデアとなる

「こういうサービスをやるなら”普通は”この要素とこの要素が無いと……」などと考えるうちに、自分の志や提供したい価値に関連しない要素をアイデアに盛り込んでしまう失敗。

これは後の価値検証の段階で問題となります。本来であればサービスの核となる少数の要素の価値さえ検証できれば事足りたのに、後から余計な要素を追加したせいで、検証項目が増えて複雑化してしまうのです。

失敗:アイデア段階で公式の認知を得てしまう

公式の認知、つまりビジネスコンテストなどで賞もらうことで“勘違い”をしてしまう起業家も少なくありません。

もちろんビジコン自体が悪いわけではありません。しかしそこで高い評価を受けてしまうと、そのアイデアに過度にこだわりすぎてしまう傾向があります。すると問題が見つかったり、新しい機会が発見されても、「ビジコンでは評価されたし……」とアイデアの軌道修正を怠ることもしばしば。

起業家側がよく意識すべき問題です。

Step4「ダーティープロト〜プロトタイプ作成」

失敗:アイデアの側(がわ)を作り込み、中身はないまま

アイデアの外側を時間をかけて作り込みすぎて、中身はないままのプロトタイピングを見かけます。

とにかく、アイデアは「クイック」に「ローコスト」で試すことを肝に銘じてください。

失敗:コストをかけすぎる

アイデアへのこだわりが強い場合に起こりがちな失敗です。

例えばバイク大好きな人がバイク関連の事業をやろうとすると、プロトタイプとはいえ、ダンボールのバイクで試すなんて許せないわけです。自分の大好きなものをそんな適当には作れない! と。結果、コストをかけすぎてしまう。バカらしいと思うかもしれませんがよくある失敗です。

繰り返しますが、価値検証は最低限のコストでやらなければいけません。

かけすぎたコストは後の軌道修正の幅を限定します。コストをかけるほどそのアイデアを大事にしてしまい、検証のスピードが遅くなります。

Step5「プロト実施」

失敗:試す場所/検証ポイントを間違える

ダーティープロトで簡単なテストが出来たら本格的なプロトタイピングをしていきます。ここで大事なのは試す場所と検証ポイントを間違えないことです。

先ほども例に挙げた「カメラマンと撮影希望者のマッチングサービス」で考えてみましょう。

このサービスの場合、プロトタイプの段階で「好きな時に好きな場所にカメラマンが来て撮影してくれる」ことを試して高評価を得ても意味がありません。サービスが提供しているのはあくまでもマッチングですから、そのマッチングサイト上で予約が入るか、インターフェースにおいてニーズが満たせているかどうかを試すべきです。

こうした検証ポイントのミスは、私自身、過去に何度も繰り返してきました。

Step6「PDCA(実証実験)期間」

失敗:指標を持たずに検証に向かう

プロトタイプが出来上がったら、ある程度の期間を確保して実証実験を行います。この時、指標を持たずに検証に向かってはいけません

チームの中で「誰に何を言われようと、ここだけ検証できれば良い」というポイントの合意が取れていないと、テストユーザーのリアクションに一喜一憂してしまいます。

検証の前には、何を検証すべきかを明確にして、それ以外へのリアクションは無視する割り切った姿勢が必要です。

失敗:ユーザーの声に無差別に従う

ユーザーの声に耳を傾けると「あれがなきゃダメ」「この機能もほしい」とさまざまなリクエストをもらいますが、その声に従うばかりではよい結果にはなりません。

例えばある短時間での運動を売りにしていたフィットネスクラブでは、利用者の70%がランニングマシンの導入を求めていましたが、実際に導入するとわずか2週間で不満が続出。撤去することになりました。

ユーザーはフィットネスクラブでのおしゃべりを楽しみに来ていたのに、ランニングマシーンを入れたことでそれができなくなってしまったためです。

ユーザーの声は大切ですが、その解像度もさまざま。起業家がそれを見極める必要があります。

Step7「PDCAに基づいてアイデアを練り直す」

失敗:Howとしてのアイデアに対する声に基づきアイデアそのものを修正する

PDCAを繰り返してアイデアを練り直す中で、「ユーザーの声を受けてアイデアそのものを修正してしまう」ことがあります。

この段階は、マーケットに出す最終製品を作る段階ではありません。アイデアを通じて、ユーザーが求める価値を発見したり見極めたりする段階です。

アイデアは価値を届けるための単なる手段で、この段階ではアイデアというユーザーが触れることができるものを通じて価値を見極めることに主眼を置くべきです。アイデアそのものは、ある意味どうでも良いのです。そんなものを修正する必要はない。

アイデアは価値を検証するためのツールに過ぎないと認識してください。

STEP8「アイデアブラッシュアップ〜PDCA期間を繰り返す」

失敗:計画及び分析に時間をかけ過ぎ、回転量と速度が足りない

世界中で人気のゲームアプリ「アングリーバード」はリリース後も含めて数十回もの試作、練り直しをしたと言われます。PDCAを回す上ではそれくらいのスピード感と量が必要です。

そもそもプロトタイプの目的を取り違えている人も多い。何より大切なのは起業家としての学習を積み重ねることです。この段階で考えているアイデアがそのままプロダクトとして成立することはほぼ間違いなくありえません。

ですから、アイデアとしての成立を狙うのではなく、そのアイデアを通して自分が何を成し遂げようとしていたのか、どうやったら届けたい価値が伝わるか、を自分が学習するための期間で、そのためにPDCAを最速で回していくべき時なのです。

失敗:ユーザーからの声を粗く収集してしまう

ユーザーであるAさんとBさんの声は、言っていることは同じでもその本質は異なる可能性があります。ユーザーの声を分析する際は、誰が/いつ/どこで/何に対して、まで解像度を上げて検証しないと、学習が粗くなってしまいます。

『マネジメント』で有名なピーター・ドラッカーは、ユーザーニーズとは「限定されたニーズである」と言っています。つまり、具体的なある場面においてユーザーが何を求めるのかを探求する必要があるのです。


次回は、プレシード期〜シード期での失敗を解説します。

こちらのも合わせてご覧ください

 


山口高弘(やまぐち・たかひろ)/GOB Incubation Partners共同代表
元プロスポーツ選手、19歳で不動産会社を起業、3年後に事業売却。それ以外にも複数の事業を起業・売却。その後、野村総合研究所に参画しビジネスイノベーション室長就任。2014年、GOB Incubation Partnersを創業。現在、起業支援インキュベータとして、企業内起業においても多くの事業・サービス開発に携わる。また、GOB Incubation Partnersでは主に若い世代がイノベーションに挑戦するためのマインドセット創り、事業化支援、キャンプ等までも実施している。内閣府若者雇用戦略協議会委員など政府委員就任歴多数。著書多数。

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