プロダクトは「分かる」と「違う」を兼ね備えてこそ「選ばれる」:起業家が陥る失敗の型[プレシード/シード期(リリース前)]

プロダクトは「分かる」と「違う」を兼ね備えてこそ「選ばれる」:起業家が陥る失敗の型[プレシード/シード期(リリース前)]

成功の理由は人それぞれ。だが失敗の理由には共通点がある──。

若くして起業家としてのキャリアをスタートさせてから、複数の事業立ち上げ・売却を経験するGOB Incubation Partners共同代表の山口高弘(やまぐち・たかひろ)はこう語ります。「起業家が陥る失敗の型」と題した本連載では、事業立ち上げのプロセスを7つに分類し、それぞれの場面で起業家が陥りやすい失敗を生々しく綴ります。

[図解]スタートアップの事業成長プロセス

この連載では、スタートアップの事業成長プロセスを上図のような7つの大プロセスに整理。それぞれの時期を詳細プロセスに分類して、事業成長の過程で起こる確率の高い失敗を解像度高く解説します。

今回は、事業の価値について再検証を行い、どのマーケットに参入するかを考え始める「プレシード期」から「シード期(リリース前)」での失敗を見ていきます。

志醸成期での失敗>

アイデア期での失敗>


山口高弘(やまぐち・たかひろ)/GOB Incubation Partners共同代表
元プロスポーツ選手、19歳で不動産会社を起業、3年後に事業売却。それ以外にも複数の事業を起業・売却。その後、野村総合研究所に参画しビジネスイノベーション室長就任。2014年、GOB Incubation Partnersを創業。現在、起業支援インキュベータとして、企業内起業においても多くの事業・サービス開発に携わる。また、GOB Incubation Partnersでは主に若い世代がイノベーションに挑戦するためのマインドセット創り、事業化支援、キャンプ等までも実施している。内閣府若者雇用戦略協議会委員など政府委員就任歴多数。著書多数。

プレシード期

Step1「ソリューションをマーケットを踏まえて変換

失敗:ソリューションとプロダクトを区別できていない

消費者は、これまで見たことがない商品やサービスに対して、過去に自分が使ってきた手段や経験との比較がしづらいと感じ、購入を控えるという行動に出ます。これを「キャズム」と呼びます。モノ好きな一部の消費者にしか買ってもらえない場合、それは商品自体が悪いのではなく、そもそも商品になっていないことが原因かもしれません。

 

セグウェイ

例えば「セグウェイ」はその知名度の割に売れ行きが芳しくありませんでした。これは、過去の移動手段のいずれとも比較ができなかったことが原因の一つでした。さらにその背景には、セグウェイの参入市場が定義づけられていなかったことが挙げられます。参入市場が定義づけできていないということは、消費者からしてもその製品をどこで買えば良いのかわからないわけです。言い換えると、わざわざ買いたいと思って探してくれる人以外には売れないということになります。

こうした失敗は「ソリューション」と「プロダクト」を区別できていないために起こるものです。

ソリューションは課題解決のための手段ではありますが、売り物にはなっていない状態のもの。対してプロダクトは、マーケットを特定し、ソリューションを売り物に変換して、売り場に並べられる「売り物」になった状態のものを指します。

ソリューションは、マーケットを特定し、そのマーケットに合わせたプロダクトの形式に変換される必要があります。

セグウェイを例にとれば、警察などの政府向け公的市場を参入市場と設定すれば、「パトロール用のより頑丈で安定性を向上させた四輪のセグウェイ」というプロダクトに変換できるかもしれません。

また、売り場があれば、消費者は隣の商品と比較することができます。

他の商品と比較が可能になれば、その商品が良ければ買ってもらうことができます。マーケットがあるからこそ人は買おうとすることができるのです。単独で売りたい気持ちもわかりますが、人は比較対象がなければ判断ができないものです。

「売り場があって」「比較できる」。これがプロダクトの要件です。

失敗:ソリューションに過剰な予算投資をしてしまう

ソリューションとプロダクトを区別できないことによる典型的な失敗が、ソリューション段階のものを磨きあげたり、売ったりするために過剰な予算投資を行ってしまうケースです。

まず前提として、ソリューションは価値を見極めるための検証手段です。検証手段であるからには、お金を掛け過ぎずに価値を検証する必要があります。

また、ソリューションはプロダクト手前の、売り場が定義されていない状態です。まだ売ることができないものを無理に売ろうとすると、膨大な営業コストが生じてしまいます。

例えば祖父母と子供、孫世代が物理的に離れて暮らしているため、孫の姿を祖父母に感じさせてあげたいとします。そのために、別々の場所でそれぞれのデバイス上に表示された同じ画面で一緒に絵を描くことができるというツールを作りました。しかし消費者の立場からすると、このツールは、その存在を知らなければそもそも出会うことができません。同時お絵描きツール売り場などというものは存在しないからです。

これは典型的なソリューション段階にあると言えます。このツールを磨き上げることはコストの掛け方として間違っており、また売るためのコストを掛けたとしても、売り場がないため売れません。

同時お絵描きツールというソリューションを、子供用の教育ツールというマーケット向けに、知育塗り絵のプロダクトに変換する。付加価値として祖父母と同時に塗り絵にチャレンジできるという機能をつける。こうすることで少なくとも売り場は定義できるようになり、売れるための初期条件は整います。

失敗:マーケットを定義できない

ここまでの失敗をまとめると「マーケットを定義できていない」ということに尽きます。どこのマーケットの製品かを定義できていないと、製品の価値をマーケットを通じて届けることができません。

例えば「Airbnb」の市場は「個人間居室シェア市場」でしょうか? 違いますね。個人間居室シェア市場なんてものは存在しません。Airbnbが参入しているのは「宿泊市場」なんです。

参入市場を宿泊市場と定義すれば、競合はホテルになる。となると、ホテルに必要な最低限の条件が見えてきます。例えば、信頼できるフロントスタッフがいたり、部屋が魅力的だったり、安心安全が保証されていたり。同様にAirbnbにも、ホストの信頼性の担保や貸し出す家のバリエーション、セキュリティシステムが必要になるでしょう。

マーケットが定義づけられるからこそ、そのマーケットに合わせてプロダクトを磨くことができるのです。

勘違いしてはいけないのは、安易に業界の常識にハマるということではありません。その市場、業界でプロダクトを届ける上で、最低限持ってないといけないものを明らかにして、磨いていく必要があるということです。

失敗:価値を伝えるために直通のマーケットを選ぶ

これもものすごく多い失敗です。例えば「親子関係を親密にしたい」という課題からサービスを考える。じゃあ「親子カウンセリングサービスだ」「家族旅行のサービスをやろう」などと考えがちですが、これだと厳しい。

多くの場合、本来は無限にあるはずの価値の提供手段を自ら限定してしまっています。多様な選択肢からハマる手段を見つけるべきなのに、最初から限定してしまうから、うまくハマらない。

例えば上の課題に、ゲーム市場から参入して成功を収めたのが任天堂の「Wii」です。家族で遊んだ人も多いのではないでしょうか。

このように、目的とマーケットがずれていればいるほどイノベーティブです。自分の狭まった視野から当たり前のマーケットを選択してしまうと、競合も多く、価値を伝えるのも難しくなります。

失敗:ポジショニングを考えない

ソリューションからプロダクトに変換できたとします。しかしそれは「売れる」ための初期条件が整ったにすぎません。それだけで売れるのであれば簡単ですが、そう甘くはないです。

消費者に対する価値を重視するあまり、競合への意識が薄まってしまうケースも少なくありません。消費者の立場で考えると、あの商品について熟知した上で購入するケースは実は少なくて、パッと瞬間的な印象で購入を決定することも多いですよね。つまり瞬時に、隣に並ぶ商品と何が違うのかをつかめるものである必要があります。

またそもそも、その商品が「何なのか」が分からなければ隣の商品との比較すらできません。

この、「分かる」と「違う」を兼ね備え「選ばれる」ために必要なのがポジショニングです。

ユニクロの商品は、安くて、品質がよい。高くてよいでも安くてよくないでもなく、「安くてよい」という独自の位置付けを消費者に感じてもらうことで、選ばれています。

失敗:本質的な価値を買う前の段階で訴求する

一方で、ポジショニングを意識したとしてもうまくいかないケースも多いです。典型的な失敗が、本質的な価値を前面に押し出してしまう場合。

例えば女性専用のフィットネスクラブ「カーブス」は、会員になった結果、その会員コミュニティの中で友人ができます。学生時代の友人でもなく、ママ友でもなく、カーブスでは第3の友人関係ができる点が会員たちにとって大きな価値になっています。しかし、それは会員になってから感じる本質的な価値であって、会員になる前の段階で「第3の友人関係ができるフィットネスクラブです」と言われても、ピンと来ないでしょう。

だからこそ、サービスを知ってもらう段階では、運動が苦手でも簡単に親しめる、などといった価値を前面に出します。

この場合、「簡単に運動に親しめる」のは誰でも理解でき、「運動が苦手でも」という点が他のフィットネスクラブとは異なる点になります。

一見、本質的な価値からみると浅いように見えるかもしれませんが、「伝わりやすく=分かりやすく」、「違う」ことも実感できるポジショニングを取る必要があることも覚えておかねばなりません。

失敗:「自分の世界観」が不在

ゼロから組み立てる事業が伸びていくかどうかは、結局のところ「自分が是が非でも手に入れたいものを作るかどうか」で決まるといった側面があります。

自分だったら、こんな製品であれば購入する。こうした「自分の世界観」が土台となっていなければ、良いものに磨き上げていくことはとても難しいです。

他者志向は非常に大切ではあるものの、「他人の課題解決のため」に走り続けてしまうと、最も納得させるのが難しい人物、つまり自分を納得させることができません。自分には嘘がつけないからです。

「自分はこういう世界を信じる」という自分の世界観を最初から持つのは簡単ではありません。他者の課題解決から始まることも少なくないと思います。しかし、あるタイミングではそれが自分の世界観に切り替わり、自分の世界観を探求する先に、これまでにない価値が生み出されていきます。

GOBで支援しているスタートアップの一つは、もともと「遊ぶ時間空間が減少している現代において子どもたちにあそびを届ける」ということを重視していましたが、事業を立ち上げた本人はとても探究心が強く日々深い学びを追求する人物でした。そこから「あそびながら学ぶことが最も深い学びである」という点を見出し、子どもという他者のために生み出された事業に、自分という相手が加わり、現在は「プレイラーニング」をコンセプトとして進化を遂げています。

Step2「事業モデルの構想開始」

失敗:顧客獲得コストを把握せずして事業モデルとは言えない

マーケットを定義して、ソリューションをプロダクトに変換できたら、次は事業モデルを構想します。

この時に最も多いミスはターゲットを絞りきれないこと。「ターゲットは20代〜40代の女性です」みたいなイメージです。20代から40代の女性と言われても、具体的には誰のことであるのかが分かりません。

リリース前の段階ではありますが、ここで考えた事業構想のターゲットは後々まで頭をもたげていきます。この段階でターゲットを絞れていないとリリースを想定した事業モデルを作っていくときに、つかまえられない顧客を追いかけることにつながってしまいます(後述)。

ですから、このタイミングでターゲットを絞っておかないといけません。

失敗:金食い虫のチャネルを選ぶ

チャネルの選択肢の幅出しと重み付けがなされていない、というミスもこの段階で起きます。ここでチャネルの選択肢が精査できなければ、リリース後にチャネルコストに苦しめられます。どんな価値を提供する時に、どのチャネルの獲得コストが安く、獲得率が高いのか。さまざまなチャネルを試しておく必要があるのがこの時期です。

当然販売開始していないため、正確なチャネル別のコストパフォーマンスは計りかねますが、試験販売やテストマーケティングによっておおよその把握は可能です。

いざ売る段階になった時に、どのチャネルが有効なのかを理解できていないと、金食い虫のチャネルがいたずらに事業のコスト構造を重くします。チャネルのコスパが判断できず、いろいろなチャネルにリソースを割いてコストアップしてしまう失敗の原因は、この段階にあるのです。

失敗:(エリア型の場合)エリア選定指標の未形成および合理的選択がなされないため、立地による事業停滞を招く

エリア型の事業の場合、リリース前に、サービス設計にばかり意識を割きすぎてしまい、立地やその選定に対して仮説を構築できていない場合があります。

どのエリアが最適かという仮説がないままに立地を選んでしまうと、事業が立ち止まった時に、それが立地のせいなのか立地以外の要因によるものなのかがわからなくなります。立地はすぐに変えられるものではないので、きちんとしたロジック、仮説を持ってやらなければいけません。

失敗:そもそもビジネスモデル形成に関する知識が何もない 

起業における「MBA(経営学修士)」の有効性に懐疑的な人もいますが、私は大いに価値があると思います。

私自身、何も知らないまま初めての起業を経験しましたが、MBAの教科書をまず一通り読んでおくべきだったと思います。先輩の起業家から「お前まじで何も知らなすぎ」ということで、あれ読めこれ読めと勧められた本を意味もわからないまま読んでいましたが、そうした知識を持っているかどうかは案外バカにできません。

失敗:経験者の体験談を聞いて鵜呑みにする

経験している、というだけで経験していない人に高圧的な助言をする人は意外に多いものです。

経験談はもちろんインパクトがあるのですが、それに盲目的に従ってしまうと、基本的に道を誤ります。当然ですが、自分がやろうとしていることとその人がやってきたことは違いますから。

一方で、アドバイスをくれる人の中には自らの経験をメタ認知できている経験者も一定存在していて、そうした人たちは「この場合はこう」という局所的なアドバイスではなくて、もっと俯瞰的な指摘をしてくれます。目の前の人が自分の経験だけに頼ったことを言っていないかを自分で判断してください。

シード期(リリース前)

Step1「プロダクトを本格リリースに向けてβ版サービス開始

失敗:プロトタイプで響いた価格が実投入ではミスマッチする

リリース手前、最終製品に近いものを作って投入する段階に入ります。すると、プロトタイプの段階ではうまくいっていたことが途端にうまくいかなくなる場合があります。

その1つが、プロトタイプで響いた価格と実投入価格のミスマッチ。

プロト段階で「5万円なら絶対使う」と言っていた人たちが、いざリリースしてみたら使ってくれないことは少なくありません。なぜかというと、ユーザーは価格に対してちょっとだけ見栄を張ってしまう生き物だから。

ユーザーが妥当だと回答してくれた価格の「1.2で割り戻した価格」が適正価格だと思ってください。3000円って言ったら2500円くらいかなと思った方がいいです。

加えて、継続購入の場合はさらに価格にシビアになります。そのシビアさを踏まえた上でリリースまでに調整を図っていかないと、ミスマッチに苦しむことになります。

失敗:オーバースペックで実験投入することで、顧客が混乱し、検証が進まない

リリース直前は、できる限り最終製品に近いものを求めすぎてしまう傾向があります。すると、プロダクトのコアな価値部分よりも、側(がわ)に凝り始めてしまうんです。

結果的にオーバースペックな製品を実験投入することで、顧客の声が側にばっかり集中してしまい、本来的に検証したかったコアな価値を検証できない事態に陥ります。直前だとしてもシンプルに。これを意識しましょう。

Step2「事業モデル実証実験」

失敗:検証項目が精査できていない

ここから、ビジネスモデルが成立するかどうかを検証しますが、やみくもに検証をはじめてしまうと、いくら時間があっても足りません。この段階でのミスは、検証項目が精査できていないことに尽きます。

ここで参考になるのが「ビジネスモデルキャンバス(下図)」です。どのような点についてどのような順番で検証すべきなのかが一目瞭然ですので参考にしてみてください。

Step3「リリース準備」

失敗:リリースに向けて必要な要素のほとんどが洗い出せない、漏れる

私自身の経験ですが、あるサービスのリリース直前に準備すべきものをリストアップしてみたら、本当に必要なものの10分の1くらいしかリストアップできていなかったんです。

つまり、本来10倍のコストがかかる部分を10分の1で見積もっていたことになり、その分リリースまでの準備が遅れてしまいます。

この点については、私がかつて先輩から教えてもらったモーニングセットの話が端的に表現しています。

モーニングセットを作るにはパンとコーヒーと卵とサラダが必要。まず作り始めるのは、時間が一番かかる卵。その次にパンを焼いて、その次にサラダを準備する。コーヒーは入れるだけだから最後。帳尻が合うタイミングが最も早くなる順番で準備を始めていくことが大切だということです。

経験がない時には中々難しいですけど、まずは漏れなく要素をリストアップするということが必要になります。

失敗:スタートアップにロハスはないということが分かっていない

スタートアップに「働き方改革」は関係ありません。スタートアップにおいては稼働量が全てを決めると理解する必要があります。

初めての起業の場合は特にそうです。ロハスなんて言っていたら絶対に成り立ちません。


最終回の次回は、シード期におけるリリース以降の失敗を解説します。

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