マーケットフィットを生み出す「5%の隙間」と「ずらし」の勘:菅原康之さん

マーケットフィットを生み出す「5%の隙間」と「ずらし」の勘:菅原康之さん
菅原康之さん

GOB Incubation Partners(以下、GOB)では、毎週1回、ランチ会と称して、メンバーがお昼ご飯を囲みながら、1週間の振り返りや学び、気づきをシェアします。また不定期に、ゲストをお呼びして、インプットの機会を得ています。

今回は、先日のランチ会に参加いただいた菅原康之さんのトークをシェアします。

菅原さんは、起業家として女性のためのオンライン医療相談サービスを展開する「アナムネ」の代表を務めながら、同時に投資家として、社会課題解決型のベンチャーキャピタル「ブラッククローキャピタル」を運営しています(なお、ブラッククローキャピタルはGOB本社内にオフィスを構えています)。

起業家と投資家、その両方の顔を持つ菅原さんのことをGOB共同代表の山口高弘は「未だ世の中にないカテゴリーで動いている一人」と称します。そんな菅原さんのビジネス観を聞きました。


菅原 康之(すがわら・やすし)
1979年北海道生まれ。2010年8月、大手インターネットマーケティング会社にて、社内新規事業の仕組み作りおよび自身もビジネスオーナーとして社内新規事業の立ち上げ・運営から売却までを経験。
2013年1月よりコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業を担当し、投資先の取締役・オブザーバーとして担当企業の事業開発、マーケティング、資金調達を支援。2015年3月、ベンチャーキャピタル子会社の設立より参画。パートナーに就任。2014年9月、株式会社アナムネを創業。慶應義塾経営大学院経営管理研究科卒業(MBA)


社会価値と事業価値の両立に、ファンドのスキームで挑む

 

毎週、オフィスで開催するランチ会の様子

GOBが目指す「社会価値と事業価値の両立」──。これは社会課題の解決と、ビジネスの持続性という、本来的に相性の良くない両者をバランスさせる点で非常に難しい挑戦であることは間違いありません。

起業家を育てることでこれを目指そうとするのがGOBだとすれば、一方の菅原さんは、ファンドというスキームで、ビジネスとしての持続性にフォーカスしていると言えます。

菅原 アナムネでやろうとしているのはオンラインの病院づくりです。私の妻が医者で、自分がインターネット領域での事業経験を持っていたので、そうした部分を掛け合わせた試みです。

またブラッククローキャピタルでは、労働人口減少と少子高齢化をテーマにした領域に投資をしています。

こうした領域は、総論としては賛成されるものの、各論レベルでは、自分たちの利益にならないため取り組めない、と言われてしまう部分で、そのため大きな社会課題であるにも関わらず未着手の領域となっています。うちの場合、大手企業のインキュベーションに取り組んでいた背景と事業開発支援までを行えるという部分を強みにファンドを組成していて、アーリーステージ以降のベンチャー企業を対象としています。

起業家に大切なのは「5%の隙間」

ここからは、ランチ会に参加したメンバーからの質問に、丁寧に答えていただきました。その一部をご紹介します。

──「社会価値×ビジネスの持続性」を考えた時、起業家に向いている人の条件はありますか?(GOB共同代表・山口高弘)

菅原 シンプルに、素直で諦めない人です。

「素直」と「諦めない」はそれぞれ独立して大切で、悪い意味で頑固で諦めが悪いのはダメ。一番最初のビジネスは自分の思い込みなので、多分失敗します。その思い込みを世の中に出してみて、ずらした先に成功するビジネスがあるので、そのためには素直でなくてはいけません。

山口 そうなると「可塑性」も条件に入ってきますよね。変化できる力みたいなもの。

菅原 あると思います。僕の言葉では、「5%の隙間」という言い方になります。5%でよいので人の意見を聞き入れる隙間があるといいと思いますが、100%になると右往左往する経営者になってしまう。だから、95%は頑固でいいんだけど、5%は素直でいてほしいです。

5%というのは、その日の夜に振り返った時に、「あれやっぱりいいかも」って振り返ることができるくらいの隙間です。5%あればそうした振り返りができるはずなんですよ。

95%のこだわりを繰り返して5%に──菅原さんが語る「ずらし」

──山口さんはよく、「こだわりを5%までダウンサイズするとマーケットフィットする」と話しています。これは一見すると、95%はこだわりを通すという菅原さんの意見とは真逆に感じるのですが、そこはどう考えていますか?(GOB・伊藤禎基)

山口 これは多分、事業の変化の回数を入れているかどうかだと思います。0.95(95%のこだわり)を何回かけたら0.05(5%のこだわり)になるか、ということです。計算すると58回になりますが、つまりこれが一般的に必要とされる標準の変化回数だと言えるのだと思います。

菅原 おそらく、ビジョナリーな経営者が事業を成功させるための「ずらし」の回数はそのくらいかもしれません。お金儲けが先に立っている人は5回ぐらいだと思う。皆さん(GOBメンバー)はビジョン先行型だと思うのでおそらく上の回数くらいが必要。だからこそ、諦めない心が必要。

「諦め」と「ピボット」の違い

──諦めるとピボットするの違いはなんですか?こだわりとして持ち続けていいものとそうでないものの見分け方を知りたい。(ヨンブンノサン事業部・丸山琴)

菅原 ピボットっていろんな定義があると思います。僕はその言葉そのものが嫌いで「ずらし」だと思っている。

ピボットというと、なんでもありな感じがして嫌なんです。ビジネスは、サプライ、デマンド、オペレーションが成り立ってあとはどのくらい収益が出るかという話になってきますが、これらすべてを変えてしまったらピボットでもなんでもなくなってしまいます。だからずらしだと思っていて、少しずつ、それぞれの要素をずらしていって「あ、刺さった」みたいなことを繰り返していく、このずらすプロセスが大事で、これがプロダクトマーケットフィットだと思っています。

──そのずらしは等間隔で起きるのか、それとも徐々にずらしの幅は狭まり最終的にマーケットフィットするのか。(Co-nect事業部・中山友貴)

菅原 後者の方がイメージには近いです。ただ、基本的には同時並行で進んでいるイメージを持っています。デマンドは同じだけど、オペレーションを変えたらフィットする、みたいな細かい修正を同時に行っていく感じです。

供給を変えるのは大変なので、デマンドとオペレーションをずらして調節することが多いですね。ぐちゃぐちゃにするとどこかが崩れてしまうので、そこを整えて一気に刺したら倒れるかというのを調整するイメージ。

「頭で考えられるものは捨てていい。残るのは感性に触れているところ」

──持つこだわりと捨てるべきこだわりの見分け方は?

究極、自分の器が出てしまう部分なんです。昔の自分は、ほとんど人の話を聞き入れない人でした。その結果、周囲からの吊し上げを食らってその事業は終わってしまった。やるやらないを自分自身の尺度で判断してしまっていたんですよね。その経験から、自分自身の器が事業のキャップになると痛感しました。

その意味で、頭で考えられるものは捨てていいと思います。結局、残るものは感性に触れているところ。

投資の世界に入ってから、たくさんの起業家を見てきましたが、IPO(上場)していく経営者は神輿に担がれる人です。逆に言うと、担いでくれる人が下にいる。

M&Aは20億で、IPOだと100億超え。この差はこだわりを捨てられるかというところも大きいと思っている。自分のこだわりをとって任せていくと大きくなるんだなということが分かってきました。


菅原さんが代表を務める「アナムネ」と「ブラッククローキャピタル」の詳細はこちら

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