「知の探索、弱いつながり、複数コミュニティ」──企業内の新規事業開発に3つの要点

「知の探索、弱いつながり、複数コミュニティ」──企業内の新規事業開発に3つの要点
GOBのCFO村上茂久

昨年12月9日、ワークデザインラボの石川貴志さんと、GOBでCFOを務める村上茂久がイベントに登壇。テーマは「外部を巻き込む新規事業開発」です。

村上は、個人がイノベーティブな提案をするためのポイントとして「知の探索」「弱いつながり」「複数コミュニティ」の3つのポイントを指摘。それらの要点を村上が解説します。

「知の探索」と「知の深化」でイノベーティブな事業開発

村上は、2018年9月に、前職の銀行を退職してGOBにジョインしてCFOに就任。それと並行して、フリーランスとして主にスタートアップ複数社の外部支援などを行っています。また、前職時代から現在に至るまで10年ほど、プライベートで、経済や金融の読書会や勉強会を運営している「FED(Financial Education & Design)」を主宰したり、今回のイベントで登壇した石川さんが代表を務める「Work Design Lab」でもパートナーとしてスポットCFO業務に取り組んだりと、幅広いコミュニティに所属して動いています。

そんな村上がこの1年ほどを振り返り、「外部を巻き込むこと」そして「それをイノベーティブな新規事業につなげる」ためのポイントを話しました。

村上茂久(以下、略):イノベーティブな新規事業開発をするために、まず重要なのは「両利きの経営」という考え方です。「両利きの経営」は早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄(いりやま・あきえ)教授が『世界標準の経営理論』で解説しています。

「両利きの経営」は、ざっくりと説明すると、右手と左手が両方使えるように、「知の探索」と「知の深化」の両方を上手に駆使できる状態を指します。これがイノベーションを起こす上での重要な要素になります。

「知の探索」とは文字通り、新しい知を追求することです。「サーチ」「変化」「リスク・テイキング」「遊び」「柔軟性」といった意味合いを内包しています。

他方、「知の深化」はすでに知っていることを活用することです。組織の文脈を踏まえると、組織にすでに存在している知の基盤に基づいたものに関連するものとなります。

チャールズ・A・オライリー 、マイケル・L・タッシュマン(著)、 入山 章栄(翻訳、その他) 『両利きの経営』8頁を参考に村上が作成

この「知の探索」と「知の深化」に関して、多くの企業は「知の深化」を得意としています。特に成功すればするほど、知の深化を推し進めようとして、結果的にそこに偏ってしまいます。

具体例としてよくあげられるのが、大企業で見られる組織内でのタコツボ化。すなわち、得意なことばかりに特化をして部分最適に陥ってしまうケースです。例えば、マニュアル化はサービスを均質にするために確かに役立ちますが、行き過ぎると柔軟性がなくなり、タコツボ化して、スムーズに環境の変化に対応できなくなります。極端な例として『サイロエフェクト 高度専門化社会の罠』では、ソニーでかつて起きた「35個のソニー製品があるが、充電器も35個ある」という状況を取り上げています。

これをサクセストラップと呼びますが、「両利きの経営」を実現し、イノベーティブな事業を推進するためには、知の幅を広げる「知の探索」もバランスよく進める必要があります。

両利きの経営に、「社内人脈+社外人脈」

これを踏まえて、次に「社内人脈」と「社外人脈」という考え方を見てみましょう。マトリックスの横軸に社外人脈、縦軸に社内人脈をとります。

村上茂久作成

両利きの経営を目指すにあたり、目指すべき具体的な例として、上のマトリックス右上の「社内人脈も社外人脈もある」状態を挙げることができます。つまり、豊富な社外人脈によって、社外に向けて積極的に知の探索を行い、そこで得たものを、今度は社内人脈を使って社内でスムーズに実行に移していくことができます。

どちらか一方でも欠けてしまうと、両利きの経営は困難です。社外人脈が少ない場合、会社にフィットし過ぎてしまい、社内政治に終始することになります。一方で、社内人脈は少ない場合には、せっかくさまざまな業界に知り合いがいても、社内での実行力に欠けてしまいます。

知の探索に、弱いつながり>強いつながり

では、社内外の人脈を持ち、両利きの経営を実行するためには、まず何をすれば良いのでしょうか?

見えてくるのは「弱いつながり(weak ties)」という概念です。

入山章栄『「スモール・ワールド」現象は、世界でさらに加速する――「弱いつながりの強さ」理論』より引用

つながりの強弱にはグラデーションがありますが、例えば会社でいつも一緒に働いてるメンバーは強いつながり、今日名刺を交換したばかりの人は弱いつながり、くらいに思ってください。

一見すると、強いつながりの方が弱いつながりよりも大切だと思われがちですが、知の探索を活用して、両利きの経営を実現するには、実はこの弱いつながりこそが重要になります。強いつながりのあるコミュニティの中では、新しい情報が入って来にくいためです。例えばFacebookでつながっている複数の友人が同じ記事をシェアしているのを見かけたりするでしょう。近い人たちの価値観は似通っていますから、そこで流通する情報の質も当然に似てきます。

一方で、数年前にどっかのイベントで会った程度の知り合いがシェアする記事は全く違う新鮮な情報だったりします。弱いつながりの方が、遠くから情報を手に入れることができますし、情報が重複しませんから、知の探索の効率が良いと言えます。

この弱いつながりと強いつながりの性質をまとめたのが下図です。つまり、弱いつながりは知の探索に、強いつながりは知の深化に向いているといえます。

入山章栄「「スモール・ワールド」現象は、世界でさらに加速する――「弱いつながりの強さ」理論」をもとに村上が制作

子どものように、どれだけ“巻き込まれ”力を発揮できるか

次に考えたいのは、知の探索で重要である、この弱いつながりの活かし方です。 本当に“ただ弱いだけ”のつながりなら意味はありませんよね。それを活かすために重要なファクターについて、今回ゲストにお呼びした石川貴志さんを見ていて気付く点がありました。

昨年初めに、こちらの3者鼎談で石川さんとお話しした際にも触れていますが、実は石川さんは人を色々なことに巻きこんでいく「巻き込み力」が抜群に高いと同時に、人からの誘いにも積極的に応じる「巻き込まれ力」も高いのです。

村上さん:最近の私の仮説ですが、「巻き込み力」と「巻き込まれ力」が大事なんじゃないかと思っています。「巻き込み力」とは文字通り、人を巻き込む力。「巻き込まれ力」とは、人に何かを誘われた時に、「何かよくわからないけど、面白そうだから行ってみよう」と、積極的な姿勢で受け止める心持ちのことです。要は、ノリがいいってことですね。ちなみに、石川さんは巻き込み力がハンパなく高い人なんですよね。私はどちらかというと巻き込まれ力が結構高いタイプ。

(「【後編】全員複業のチームメンバーが考える、人とのつながり方、チームアップの仕方、そしてこれからの時代に必要なこと。 〜Work Design Lab 石川貴志さん・村上茂久さん・倉増京平さん〜」より引用

私は前職の銀行員時代、大きな組織にいる中で、だんだんと「巻き込まれ力」を失って行く感覚がありました。なぜなら、巻き込み力が強い人は、社内で「面倒な人」といった扱われ方をしてしまうからです。巻き込み力が強い人に関わらなくなることで、だんだんと「巻き込まれ力」が弱まっていき、知の探索を得るきっかけを失ってしまいます。

そこで大事なのは、やっぱり社外に対してどれだけ巻き込まれにいくかだと思います。上の鼎談の中で、石川さんが「巻きこみ力と巻きこまれ力の最高峰は子どもである」という話をしていました。子どもは公園で初めて会った人にも「砂場へ行こうぜ」と誘いますし、それを受けた子供は「うん、行こう」となる場合がほとんどです。誘われる側は「砂場に何があるの? なんのために? まずは目的を整理しよう」なんて考えない。行ったら楽しいかもというだけで巻き込まれていきます。

弱いつながりのコミュニティへ「越境学習」のススメ

でも大人になった私たちからすると、巻き込まれ力を発揮するのって案外難しいものですよね。じゃあどうするかという時に、ぜひ「ハードルの低い越境学習」を提案したいと思います。

「越境学習」とは、所属する組織の枠を自発的に“越境”し、その外に学びの場を求めることを意味します。知の探索をするために、あるコミュニティから別のコミュニティへ越境学習をする際のポイントは「弱いつながりのコミュニティへ」行くことです。

強いつながりがあるコミュニティでは、すでに関係性が出来上がっていて外から入流ハードルが高いですし、そこで流通する情報の種類も似ているため、知の探索には向きません。

一方でつながりが弱いコミュニティなら入りやすいですし、知の探索が捗るので越境学習がしやすいのです。

複数コミュニティへ所属で、越境学習の受け皿を確保する

ただし、越境学習にも課題があります。それが「迫害」です。

私自身も経験したことですが、別のコミュニティで学んだことを社内に持ち帰れないんですね。これを専門用語で「迫害」と言います。越境学習のよくある例として「MBA」などが挙げられますが、外で得たスキルや経験を社内に還元することには、高いハードルがあるのです。

外で多くのことを学んだとしても、学びを還元することができないとどうなるか? 外で学んだことを隠すようになります。何もしていないフリをして、学びの還元を閉じてしまう状態です。越境学習をしようとしても、結局のところ迫害されてその還元先を失ってしまっては意味がありません。

そうした状況に対して、私が考える解決策の一つは非常にシンプルで、「複数コミュニティに所属する」ことです。

越境学習に行ったとして、その学びの受け皿が一つしかなければ、そこで迫害されてしまうと、得られた学びや知の探索が無駄になってしまいます。しかしながら受け皿を複数持てていれば、そのどこかには引っかかるかもしれません。実際、私自身も複数の組織に所属する中で、常に適切な学びの還元先を選択しています。

改めてここまでの話をまとめると次のようになります。

・まずはベースとして巻き込み力と巻き込まれ力が重要。
・その上で知の探索を行い、弱いつながりを見つける。
・弱いつながりを持つ複数のコミュニティに所属して越境学習をする。

こうしたサイクルを繰り返すことが重要です。イノベーティブな新規事業提案をするために、「知の探索」「弱いつながり」「複数コミュニティ」の3つをぜひ意識してみてください。

 

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