「声」でメンタルヘルスを見える化、企業のリスク管理をサポート:リスク計測テクノロジーズ・岡崎貫治

「声」でメンタルヘルスを見える化、企業のリスク管理をサポート:リスク計測テクノロジーズ・岡崎貫治

岡崎貫治(おかざき・かんじ)さんが代表を務めるリスク計測テクノロジーズ株式会社では、働く人々を支援することで、企業や社会のリスクを削減し、生産性の向上につなげるためのリスク管理ソリューションを提供しています。

ひとくちにリスクと言ってもさまざまです。為替や株式などの価格変動に伴う「市場リスク」、債務不履行などの「信用リスク」や、業務を通じて生じる「オぺレーショナル・リスク」、人的資源に関する「人材リスク」など、企業はあらゆるリスクを念頭に置きながら経営することが求められています。

リスク計測テクノロジーズ株式会社代表の岡崎貫治さん

その中でも、岡崎さんたちがフォーカスしているのは、近年、相対的に需要が高まっている「人材リスク」と「オペレーショナル・リスク」への対応です。これらのリスクを定量的に測定、管理するために、その要因となるメンタルヘルスの可視化とデータ分析に着手。声だけで簡単に心の状態を可視化するWebアプリを開発・提供しています。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

声だけで心の状態を可視化するWebアプリ

メンタルヘルスの可視化ツールとして私たちが提供しているのが、声だけで簡単に心の状態を可視化する「マインドヘルス計測システム」です。企業や組織におけるデバイスのセキュリティ管理に配慮して、Webアプリの形を採用しています。現在は、個人向けと、グループメンバーのデータを一元管理できる企業向けの2バージョンがあります。

使い方はシンプルです。Webアプリで録音を開始し、2回以上発話するだけ。計測は5秒程度で終わるため、忙しいときでも気軽にできます。「おはよう」や「こんにちは」といった意味のある単語だけでなく、「あー」や「うー」などでも解析可能なため、言語や年齢を問わず、使ってもらえます。この音声解析の技術は、PST株式会社が開発したエンジンを使用しています。

「REC」ボタンを押して、声を出すだけ

計測結果は、録音完了後すぐに確認できます。アプリの操作は、マニュアルがなくても誰もが利用できるように、基本的に「REC」「STOP」の2つのボタンだけのシンプルな作りにしています。

4項目の数値が100段階で表示される、計測結果はCSVファイルでも取得できる。

このアプリでは、声の特徴から、「Vivacity(快活度)」と「Relaxation(寛ぎ度)」の2項目を測定。さらにそこから「Feeling(今の調子)」を測定しています。そして、最大で過去14日間分の「今の調子」を用いて「Mind Activity(心の健康状態)」の数値を算出します。

「快活度」は喜びと悲しみの気持ちのうち、喜びの気持ちが大きい場合に数値が高く、「寛ぎ度」は平静と興奮のうち、平静の気持ちが大きいほど数値が高くなります。そしてこれらの数値が高いほど、「今の調子」の数値は高くなるのです。ただし、「今の調子」は計測の度に上下に変動する傾向があります。これは、心の健康状態が良好な人ほど、さまざまな刺激に心が反応しやすいためです。「心の健康状態」は、こうした「今の調子」の水準や変動といった特性を踏まえて計測しています。

また、これはリリース後に実際に現場で使ってもらう中でわかってきたことですが、「心の健康状態」の数値は、状態が良好な人の場合、自身の平均値を中心として上下に緩やかに変動を繰り返す傾向があることが観測できました。現在、こうした観測結果の吟味を進めていますが、心が元気な人は短期的には気持ちの揺れ動きが生じても、中長期的には平均に回帰する傾向があると考えています。

現在リリースしているアプリでは、メンタルヘルス不調の目安として、「心の健康状態」が、(1)5日連続で低下(2)7日間に20ポイント以上低下(3)3日連続で20ポイントを下回った場合、にアラートを表示します。またセルフチェック機能として、自身の計測結果との比較(vs 平均、標準偏差)が可能です。さらに、現在までに多くのデータが蓄積されたことから、当社のデータベース(の平均、標準偏差)との比較も最近追加でリリースしました。

メンタルヘルスのケアは、今や重要な経営課題に

さまざまなリスクの中でも、近年は、メンタルヘルスの不調を原因とする人材リスク(退職、休職、低パフォーマンスなど)やオペレーショナル・リスク(事故、ミス、不正など)への対応がますます重要になっています。多くの企業や組織においても重要な経営課題であり、「健康経営」や「働き方改革」といった取り組みを通じて、解決を図る企業も増えています。

メンタルヘルスのケアは、早期発見、早期対応が成功の鍵を握ります。しかし、日々手軽かつタイムリーに計測する手段を持たないために、発見が遅れてしまうことも少なくありません。特に、社会的責任が重いエッセンシャルワーカーのように、業務負荷が大きく、高ストレスに晒される職場では、頻繁に計測して働く人の状態をチェックしなければなりません。「お客さまに喜んでほしい」「役に立ちたい」という気持ちは、働く人のモチベーションや、サービス品質を高めるエンジンにもなりますが、一方で責任感や使命感が強すぎると、過度な緊張やストレスにもなりえます。その結果、些細なきっかけで集中力や注意力が低下し、重大なインシデントの発生にもつながりかねません。

しかし従来の自記式アンケートでは、どうしても回答バイアスが生じてしまい、正確な情報が得られないという問題がありました。

今現場に必要なのは、組織と従業員の双方にとって、とにかく負担のない形で、簡単に計測する仕組みです。こうすることで、業務上も余裕をもった打ち手が可能になり、従業員自身も全力で余暇を楽しむことができるはずです。その結果、リスクが削減できるだけでなく、生産性の向上にも寄与すると考えています。

すでに40を超える企業や団体へ導入、蓄積データを基により精緻な解析を目指す

「マインドヘルス計測システム」は、2020年3月のリリース後、すでに多くの企業、団体が利用しています。加えて7月から年内いっぱいは、横浜市が運営する「LIP.横浜」の支援を受けながら、さらなるデータ収集に向けて実証実験を実施しています。

今回はコロナ禍の影響で、説明会から実証実験の開始まで、一度も対面で説明する機会がないままでのスタートでしたが、アプリの利用にあたっては特段の問題もなく、スムーズに利用してもらえたようです。シンプルに設計したアプリのユーザビリティの効果を実感できました。

2020年11月の「第三回 中国国際輸入博覧会(CIIE2020)」で、横浜ブース内に出展(その後、オンライン出展が決まった)

「声」での可視化は、リスク管理のブレークスルーになりうる

私はこれまで、前職のコンサルタント時代を含めて、リスク管理に関するアドバイザリー業務を担当。データ分析を用いたイベント発生の予測などを得意としており、特に信用リスクを中心に手掛けてきました。しかしながら、冒頭でも述べたように、近年は「人材リスク」や「オペレーショナル・リスク」のような、より人に近い部分でのリスクへの対応の必要性が相対的に増してきました。

従来こうしたリスクは、財務諸表や市場データといった視覚的な情報と異なり、働く人の内面が絡むため、そのリスクを可視化し、し、定量的に管理する手法に乏しいのが問題でした。

いかにしてデータを収集するかが課題だった中で、声だけで簡単に心の状態を可視化する仕組みに出会ったのです。リスク管理手法と組み合わせることで課題を解決し、ブレークスルーを起こすソリューションができるのではないかと感じ、リスク計測テクノロジーズ株式会社を設立するに至りました。

コロナ禍で増す「人材リスク」「オペレーショナル・リスク」対応の重要性

また、上でも述べたように、今は働き方が大きく変わり、働く人、組織の双方にとって、不安定な時期にあります。こうした状況下で、企業のパフォーマンスを引き上げるには、新しい働き方に適応しながら、今いる従業員がどれだけ元気に働けるかにかかっているでしょう。

今後私たちは、「リスク管理をもっと簡単に分かりやすく」というスローガンのもと、社会や企業の生産性向上というビジョンに向けて、リスク管理とヘルスケアの2つを融合した事業を組み立てていきたいと思っています。そのためにも、まず最優先に進めているのがデータの蓄積です。これまでにないプロダクトのため、1人でも多くのデータを取得し、リスクを予測できるモデルを作っていくことが短期的な目標です。

さらには応用領域として、言語コミュニケーションが難しいケースでの活用や、教育・研修、マインドフルネスなどでの効果測定など、さまざまな活用シーンへの対応も進めていきたいと考えています。

意外なところでは、スポーツ分野にも強いニーズがあることがわかってきました。スポーツトレーナーと意見交換をしたところ、疲労は目に見えないため、選手自身でも自覚が難しく、オーバーワークなどで怪我をしてしまうリスクもあるようです。また、認知症などさまざまな事情で言語コミュニケーションが難しいケースでも、その人の気持ちを知る手掛かりとして活用してもらうことで、介護サービスの効果検証や改善へとつなげられるかもしれないという話もしています。現在は分析と測定、管理までのプロダクトですが、その先として、メンタルヘルス不調時の対処方法まで提案したいと考えています。独自開発だけにとどまらず、そうした知見をもつ組織との連携、アライアンスを通じて、最速でのサービスインを模索しているところです。


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