元客員起業家インタビュー:株式会社オンテンバー代表取締役・並木渉さん

2018年から客員起業家として参画し、2021年2月に法人化した株式会社オンテンバー代表取締役の並木渉さんにお話を聞きました。

*この記事は2022年1月に実施したインタビューをもとに制作しています。

——まずはオンテンバーの事業内容を教えてください。

現在は、次の2つの事業を展開しています。

1つ目は、客員起業家として参画した2018年から続けている「カンターキャラバン」です。

法人向けに「オフサイトミーティング」を提供しています。自然のある場所に向かい、当社が持つ「ミーティング効果を最大化させるノウハウ」を通して本音を引き出し、余白を作ります。

2つ目が、2021年4月にリリースした「おつまみデリ」。コロナ禍でカンターキャラバンを休止せざるを得なくなったことを受けて開発しました。

オンライン懇親会や研修、ワークショップの参加者が希望する場所に「おつまみ」を届けるサービスで、日本全国から厳選したおつまみは、生産者の想いやストーリーを重視して選んでいます。お客さまのご要望に応じてオリジナルパッケージを作ることも可能です。郵便ポストに届くので、不在時でも受け取れます。希望に応じて、オンライン懇親会を盛り上げるアイスブレイクキットやワークシートも同封しています。

——渉さんは2018年に客員起業家として参画しましたが、事業立ち上げの原点になった社会に対する「違和感」のようなものがあれば教えてください。

カンターキャラバンは法人向けのオフサイトミーティングサービスですが、実は当初着目していたのは、夫婦などのパートナーシップに関する課題でした。

私が新卒で入社したのは、全国に数千名規模の社員を抱えるメーカーでした。現在オンテンバーで取締役を務める妻もその同期です。

その企業文化にどっぷり浸かっていた中で、自分の意思が極限まで削ぎ落とされていくような感覚がありました。その後は外資系の製薬会社に転職し、給与も上がりましたが、ほどなくして、初めて授かった子供が流産しました。妻はその後、体調を崩して会社を退職し、家にこもりがちになり、一方の私は転職したばかりで、まったく妻のそばにいられませんでした。

多くの企業では、働き方や場所、時間などあらゆるものが規定されています。そうした文化やルールに慣れていくと、次第にそれはプライベートも侵食するようになりました。何をするにも会社優先で、完全に他人に決められた時間を生きていたのです。

そうした中で、改めて自分や家族のことを見つめ直すと、何らかのチャレンジをし続けるためには心理的な安全が不可欠だと感じたのです。時間的余裕やお金以上に、パートナーという一番身近な存在と根底でつながり合える関係性が何より重要だと考えました。

その仮説に基づいて、パートナーシップを改善するサービスをいくつか検討して、プロトタイプを作っていました。

——そこから「カンターキャラバン」に事業領域を移したきっかけを教えてください。

GOBの人にもインタビューやトライアルに協力いただきながらプロトタイプを開発していたのですが、なかなか芽が出ませんでした。

その中で「パートナーシップ」は結果論だと気づいたのです。パートナーシップや家族との関係性について考えるには、それ以前に、ひとりひとりの心に「余白」がなければいけません。そうした思索を経て、人生の多くの時間を過ごす「働く」という行為の中で、ビジネスパーソンひとりひとりの心に余白を作るための方法を追求し、対人関係における信頼構築をビジネスの場に取り込んでいこうと目を付けたのが「カンターキャラバン」でした。

当時は「働き方改革」なども盛り上がっていたので、その時流にも乗ってサービスを立ち上げました。

——カンターキャラバン自体はオランダ発のサービスで、それを日本に輸入した形ですよね。オランダ版のサービスは「自然の中ではたらく」をコンセプトにしていて、必ずしも「オフサイトミーティング」というマーケットに限定したものではないと思います。当初から「オフサイトミーティング」というマーケットを意識していたのでしょうか?

「オフサイトミーティング」という市場を意識したのはかなり後のことです。

初めは、「自然」「いつもの会議室とは違う空間」「はたらくに余白を」といった点を打ち出していました。

ただ、さまざまな企業にトライアルをしていただく中で、次第にどう売っていいかわからなくなりました。サービスを構想した2018年当時は、類似サービスがほとんどなかったので、どのマーケットで売れば最も顧客に価値が届けられるのか、手探りの状態でした。

——試行錯誤を続けた結果、行き着いたのが「オフサイトミーティング」だったのですね。

はい。お客さんにヒアリングを重ねていく中で、自分たちのサービスの価値を捉え直し、見えてきたのが「オフサイトミーティング」というマーケットでした。

どのマーケットで商品を売るかというのは、起業家本人にとってはとてもこだわりがあるポイントだと思います。だからこそ、起業家自身が打ち出したい価値と、顧客が受け取る価値とのギャップに苦しむことも多いように感じます。実際私の場合も、「このマーケットはいやだ」とか「ここと競合とは思われたくない」みたいな意識があったので苦労しました。

でも結局は、一番お客さんに手に取ってもらいやすいところがベストなのです。もちろん起業家としてこだわりを持ち続ける部分も大切ですが、マーケットの選定に関しては、こだわりは捨てて、素早く試すのがいいと思います。

今は「オフサイトミーティング」という市場で勝負していますが、今後は「アウトドア」や「ワーケーション」など別のマーケットも意識しながら、最も顧客に価値を届けやすい場所を選んでいければと思っています。

——なるほど。マーケットの選定は事業を作る上での肝だと思いますが、具体的にはGOBからどういうサポートがあったのでしょうか。

事業実証期でもっともリソースを投下すべきところが、マーケットの定義ですよね。GOBの場合、起業家の価値観を起点に事業を作るための型を持っているので、それぞれのプロセスで何を検証すべきで、何をしないべきなのか明確だったのが良かったです。

先ほど言った通り、社会課題を解決したい起業家は想いが強い分、こだわりも強い傾向にあります。でもビジネスとして成立させようと思うなら、自分のこだわりをある程度捨てて、マーケットや社会にどう受け入れてもらうかという視点が必要になります。

GOBの持つ事業立ち上げの型では、それぞれのプロセスでこだわるべきこととそうでないことが明確になっているので、今必要なことに絞って検証できました。

——ありがとうございます。次に、ビジョンについて教えてください。客員起業家時代には「はたらくに余白を」、現在のオンテンバーでは「人生に余白を」をビジョンに掲げていますが、こういったビジョンの言語化については、どのように進めていったのでしょうか?

自分たちの中でぼんやりとこうしたいと思っている散らかった思考を、徐々に整理して、最終的に「余白」という言葉にまとめられたのは、GOBの力が大きかったです。頭の中で考えているだけだと、なかなか伝わる言葉にもならないので、それを誰もがわかる言葉に落とし込んだり、言葉にした後も「じゃあ余白ってどういうことなのか」みたいな問いかけを通じて、その解像度を上げたりなど、言語化のプロセスではかなりGOBの皆さんのお世話になりました。

ビジョンは、顧客の購買理由ではないので、それを磨き上げたからといって決して売上が上がるものではありません。

でも経営をしていると、日々いろいろな問題が起こるし、意思決定が必要になります。その時に、ビジョンが明確であればあるほど、ブレない判断の拠り所になりますし、簡潔であればあるほど、その決断が早くなります。

そういう意味で、事業立ち上げ初期からビジョンを磨き上げ続けられたことはとても良かったと思っています。

——お話を聞いていると、メンタリングを効果的に使って事業を進めていった印象ですが、特に印象に残っているアドバイスや、ターニングポイントになった問いかけなどがあれば教えてください。

パッと思いつくのは「3層価値」の検証です。

よくGOBのメンタリングで出てくる話ですが、サービスの価値には次の3種類があります。

3層価値

1:入口価値:わかりやすい表面的な価値、多くの人がいいね、と言ってくれるけど、そこにお金を払ってはくれない

2:熱狂価値:人をすぐさま引き付ける価値、お金を払ってでも得たいとある程度の人が言ってくれる

3:本質価値:体験しないとわからない深層的な価値、使ってくれた人が素晴らしいと言ってくれて、感動して継続的に使ってくれる理由になる

起業家はどうしても社会に届けたい本質価値を大切にするので、商品を売っていく際のフックになる入口価値や熱狂価値を意識できないケースも多いのです。そのため、泥臭く顧客の声を拾い集め、顧客にとっての価値が何なのかを丁寧に、検証しなければいけません。

メンタリングの中で、この検証を進められましたが、これは本当にやって良かったと思っています。100人くらいに話を聞く中で、自分たちが想定しているお客さんが価値を感じていなかったり、その逆に思いがけず価値を感じているお客さんがいたりと、自分たちの意識とのギャップに明確に気づけた瞬間でした。

今でも、新しいサービスを打ち出したり、方向転換、アップデートしたりする時には必ずこれを検証するようにしています。

——そのほか、客員起業家制度を通じて得られたこと、よかったと感じるポイントがあれば教えてください。

私たちの事業は大企業がメインターゲットだったので、ローンチ前のまったく信用がない状態でも、GOBのつながりを活用して多くの企業にトライアルいただけたことは、かなり大きなアドバンテージでした。

また客員起業家として、完全に組織の中に迎え入れてもらえるので、我々が起業した後、経営者として組織運営をする上で大切なことをあらかじめ組織の中で体験できたことは非常に大きな学びでした。

——最後にオンテンバーの今後の展望を簡単に教えてください。

これまでカンターキャラバンは、各地域の拠点と提携してミーティングを開催してきましたが、2022年1月に、初の自前拠点となる「TamariBaar(タマリバー)」をプレオープンしました。まずはこれを成功させることが一番の目標です。

神奈川県川崎市にオープンした「TamariBaar」

ここをきっかけにサービスを知ってもらい、他の提携拠点へとお客さまをお連れできたらいいなと思っています。

その先の未来として今思い描いているのは「地方にビジネスを連れて行く会社」になりたいということです。私たちがハブになって、地域と各企業の間でさまざまなビジネスが生まれるような存在になっていきたいと考えています。

そのためにも、まずはTamariBaarを中心に、サービスを拡大していきます。