施工現場のDX、労務管理を紙からスマホへ:SHO-CASE・髙村勇介

オリンピックなどの華やかなイベントや展示会の裏では、設計、施工、演出といった空間づくりを請け負う人たちがいます。自身の現場経験をもとに、ニッチな業界の課題に向き合いDX(デジタル・トランスフォーメーション)による解決を目指して事業を進めているのが、株式会社SHO-CASE代表取締役の髙村勇介(こうむら・ゆうすけ)さんです。

「このままでは日本のものづくりはいつか終わってしまう、これから入ってくる若い人たちが楽しいと思えるような業界にしたい」——。そう話す髙村さんが手掛けるサービス「SHO-CASE」とは。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

施工現場の労務管理、数百人の情報を紙で管理することも

内装工事の現場

髙村勇介:私は、施工現場における紙での労務管理をスマホで電子化するサービス「SHO-CASE」を開発、提供しています。

施工現場といってもあまり一般の人には馴染みがないかもしれませんが、例えばディスプレイ業界。東京ビッグサイトや幕張メッセなどの会場では1年を通してさまざまなイベント、展示会が開催されていますが、その空間設計や内装の施工、演出などを専門業者が手掛けています。

こうした現場では、さまざまな企業から多くの職人が派遣されます。1現場あたり数十人から、大きな場所では数百人単位での作業になる場合もあります。

従来、そうした施工現場での労務管理は紙によるアナログな管理が一般的でした。主な管理業務の1つに「新規入場者アンケート」があります。

これは現場に入る際に職人が記入するもので、名前や所属企業、健康状態などすべての作業員の記入が義務づけられています。これらすべてを現場監督がファイリングして管理しなければなりません。アンケートの記入とファイリングに、1人あたりおよそ10分ほどかかります。だとすると、年間して考えれば大きな負担です。

新規入場者アンケートを記入する様子

規模が大きく、長期にわたる建設現場であれば、労務管理用の機械を導入して管理を効率化するケースもあります。多くは、現場の入り口にドアのようなものを設置して、入場の際に職人がIDカードをタッチする仕組みです。

しかし、例えば前述のディスプレイ業界は、1日や2日といった超短期で、かつ屋内の狭い現場も多く、そうした大規模な機械を導入することは現実的ではありません。

SHO-CASEなら10分→1分に

「SHO-CASE」は、こうした業務をスマホ1つでデジタル化し、手軽に大幅な時間の短縮を可能にしました。

使い方はシンプルです。

まずは現場監督側がその現場の情報をウェブ上に登録し、QRコードを発行します。作業員は入退場の際にスマホでそのQRコードを読み取り、自分の所属などを入力すれば、クラウド上で情報を一括管理できます。

紙での管理はもちろん、ID カードでの管理でも現場監督がスキャンしに行かなければいけないなどの負担がありました。SHO-CASEならそうした手間も軽減できます。

1人あたりの入退場にかかる時間が短縮でき、会社ごとにファイリングの手間も必要ないため、用紙1枚あたりこれまでかかっていた作業時間に対して、約9割の効率化を見込んでいます。

SHO-CASEは2021年10月からα版の提供を開始。国際的なスポーツイベントの装飾現場で導入されるなど、すでに2,500人以上が利用しています。

業界最大手の乃村工藝社に入社、大好きな業界の人材不足に強い危機感

前職時代の髙村さん

2020年10月にSHO-CASEを立ち上げる以前はディスプレイ業界の最大手である乃村工藝社で、現場監督として働いていました。

新しい環境で頑張ろうとフリーで独立をしました。なので全然起業なんてする気もなかったし、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。

私はもともとものづくりが好きで乃村工藝社に入社をしました。現場監督時代は実際の現場で職人さんたちと日々コミュニケーションを取りながら、時には厳しい言葉をかけられたり、逆に困難な依頼をしたり、バカ話をしたり、そんな辛くとも楽しい現場の雰囲気が大好きでした。

でも、現場で出会う職人さんたちはそのほとんどが40代、50代の方ばかりで、若い人は入社してもすぐに辞めてしまいます。人材不足は業界の大きな課題でした。このままでは、日本のものづくりがいつか終わってしまうと感じていました。

乃村工藝社を退職した時に、SHO-CASEの構想があったわけではありません。でも、大好きなものづくりの業界に貢献したい、そしてこれから業界に入ってくる若い人たちが楽しいと思える場所にしたいという思いは前職時代からありました。 残業や書類管理の面倒くささを解決することが、こうした問題の解決につながるのではと思っています。

「ウチは紙でしかやらない」——職人たちの意識を変えることが必要

これまで2,500人にサービスを使ってもらう中で、課題も見えてきました。

想定はしていましたが、職人の中にはスマホに慣れていない方も多く、「うちは紙でしかやらないよ」と突っぱねられたこともあります。

私自身も現場を訪れて、SHO-CASEを導入する背景や一つひとつの作業のやり方を説明していますが、やはり抵抗もあるようです。

紙の管理で現場がうまく回っているし、新しいサービスは必要ないという意識をどう変えていけばよいか、今でも模索しています。それでも、乃村工藝社で5年間働いた経験はとても役に立っていて、実際の現場を知っているからこそ、私の話に耳を傾けてくれる職人さんたちも多くいます。

「入退館を記録として残し、スマホで見れる便利さが良かった」「初回入力は手間を感じるが、現場での入退場は分かりやすい」などうれしい声も多く、今後さらにUXを改善できれば、導入のハードルも下げることができると考えています。

入退場データを起点にしたサービス展開

SHO-CASEとしては、まずは入退場のデータベースを起点に、近接領域へと事業の幅を拡大していきたいと考えています。ゆくゆくは写真や工程表の管理などの業務効率化、さらには、蓄積したデータを活用した人材のマッチングなども見据えています。

この業界は信頼で成り立っているので、裁量を持っていたり、またはフリーで仕事を受けていたりする職人さんの場合、個人レベルで「また仕事しましょうね」と発注を受けるケースもあります。

もし、SHO-CASEのデータで、職人の年齢や出身地、事故の有無や経歴を可視化できれば、発注者も「この会社は20代が多いので機動力はあるかもしれないが、経験が少ないから教育を厚くしよう」など意味のある判断ができます。

また、現場の種類によって繁忙期や閑散期があるため、専門職の会社は元請けからの発注がないために、仕事をしたいのに時間を持て余している職人もたくさんいます。職人や会社の稼働状況を可視化すれば、空いている人に発注するといった新しい発注のあり方を作り出せるかもしれません。

SHO-CASEは現在、私とエンジニア2人の計3人で事業を進めていますが、今後のチャレンジに向けて採用も強化していきたいと思っています。

インフラ系のバックエンドエンジニアはもちろん、ファイナンスやマーケティング、セールス、広報、ウェブデザインなど手が足りていない部分も多いので、もし興味がある方がいれば、気軽にご連絡ください。

SHO-CASEについて>