Diversityって? 日本人ビジネスパーソンが留学生にメンタリング、4ヶ月でダイバーシティ&インクルージョンの当事者意識を育む「MILE」:An-Nahal・品川優

パスポートを持っていますか? この質問にハイと答える日本人はおよそ5人に1人です。では、外国人と一緒に働いたことはありますか? この質問には何人がハイと答えられるのでしょうか——。

企業経営の指標として重視されているのが「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」です。個々の違いを受け入れ、それを組織としての成長やイノベーションにつなげていくことを意味します。外国人材の積極的な登用も、その一つ。この点において日本企業は大きく後れを取っていると言われます。

そうした日本企業のD&I推進を支援するのが、株式会社An-NahalCEOの品川優さんです。同社は「インクルーシブリーダー」の育成プログラムを開発しています。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

外国人材へのメンタリングで、日本企業にD&Iの当事者意識を

品川優:An-Nahalでは、外国人材の登用を推進したいと考えている企業に対して、人材育成のプログラムや、ダイバーシティ推進のための研修、コンサルティングを提供しています。

今主に開発を進めているのがインクルーシブリーダーを育成するプログラム「MILE」(マイル)です。

MILEでの様子(写真中央が品川さん)

インクルーシブリーダーとは、組織としてダイバーシティ(多様性)を受け入れ、他者の個性を尊重しながら、それを優れたビジネス成果へとつなげられる人材を意味します。その前提には、多様な人材を受け入れ、ダイバーシティをもつことがあるわけですが、一口にダイバーシティと言っても、ジェンダー、年齢、障害などさまざまです。特に「人種」「文化」の多様性について、日本企業はまだまだ積極的な働きかけができているとは言えません。

パスポートを持っている日本人は5人に1人。ましてや外国人と働いた経験のある人はほんの一握りでしょう。日本企業で働く人たちは、人種や異文化の多様性について当事者意識を持ちにくい環境なのです。

私たちが開発しているMILEは、その当事者意識を育むきっかけを提供しています。

MILEでは、日本人ビジネスパーソンと、日本企業への就職を希望している外国人留学生でチームを組んでもらいます。日本人ビジネスパーソンがメンターとなり、4ヶ月間のプログラムの中で、留学生のキャリア構築などの悩みに対してメンタリングを通じて伴走します。

留学生はその後のキャリアにつながる経験ができますし、同時にメンター側の日本人にとっても、まったく異なる文化背景をもった人と協働できる貴重な機会となります。

採用ステップ見直し、サイトに英語併記——プログラム後の変化

2020年10月からの4ヶ月間、トライアルとしてMILEを初めて実施しました。留学生6名と、ダイキン工業など全10社から日本人12名が参加。留学生1名に対してそれぞれ異なる企業に所属する日本人2名がメンターにつきました。

MILEは、スウェーデンの社会的企業が開発したメンタリングプログラムをモデルに、実際のコンテンツは私たちがほぼイチから作りました。私たちの場合、メンタリングという要素に加えて「インクルーシブリーダーシップ」の育成が目的にあるため、その辺りの設計は苦心しました。

おそらく多くの日本人にとって、ダイバーシティやインクルージョンは抽象的すぎてつかみ所のない概念だと思います。そこで私たちはこれまで企業に提供してきたコンサルティングなどの知見を活かしながら、D&I推進に必要なリーダーシップをいくつかの構成要素に分解。それぞれの項目ごとにプログラム前後での変化がわかるような評価基準を作りました。

4ヶ月のプログラムを経て、留学生6名のうち3名が日本企業からの内定や有償インターンでの採用を獲得。その後のキャリアを拓くことができました。

2020年10月からの4ヶ月間、トライアルとしてMILEを初めて実施しました。留学生6名と、ダイキン工業など全10社から日本人12名が参加。留学生1名に対してそれぞれ異なる企業に所属する日本人2名がメンターにつきました。

MILEは、スウェーデンの社会的企業が開発したメンタリングプログラムをモデルに、実際のコンテンツは私たちがほぼイチから作りました。私たちの場合、メンタリングという要素に加えて「インクルーシブリーダーシップ」の育成が目的にあるため、その辺りの設計は苦心しました。

おそらく多くの日本人にとって、ダイバーシティやインクルージョンは抽象的すぎてつかみ所のない概念だと思います。そこで私たちはこれまで企業に提供してきたコンサルティングなどの知見を活かしながら、D&I推進に必要なリーダーシップをいくつかの構成要素に分解。それぞれの項目ごとにプログラム前後での変化がわかるような評価基準を作りました。

4ヶ月のプログラムを経て、留学生6名のうち3名が日本企業からの内定や有償インターンでの採用を獲得。その後のキャリアを拓くことができました。

そして何よりメンターを務めた日本人や日本企業において、想定していた以上の大きな変化が見られました。

MILE参加者の声

参加者の一人は、ある企業の人事課長でした。その方は、MILE参加後に自社の採用の仕組みを見直しました。日本語の習熟度合いだけを理由に、優秀で人柄の良い留学生の採用を見送ってしまうことがもったいないと感じたようです。実際に会社のインターンシップの採用ステップの見直しに働きかけたり、採用サイトに英語表記の追加を提案したりと、日本語力だけで外国人材がフィルタリングされないような仕組みの整備に取り組みました。

また別のシステムエンジニアは、プログラム終了後に会社の同じフロアで働いていた同僚のインド人エンジニアとの交流の機会をもてるようになったと話してくれました。勇気を出して話をしてみたら、自分が進めているプロジェクトに必要な技術の専門家だったようで、仕事にもプラスになったそうです。彼の場合、MILEで自身がメンターを務めた留学生がインド人だったこともあり、自分が思っていたよりもコミュニケーションを怖がる必要はないと気づけたことが大きかったようです。まさにD&I推進の理想的な姿だと思います。

わずか4ヶ月という時間の中でこのような変化が見られたことは、非常にポジティブに捉えています。

一方で、実際に企業の中で一緒に働くことはまた違った難しさもあります。

実際に外国人材を組織や部下に迎えた時には、言語や文化の小さな違いがお互いに面倒だと感じることもあるでしょう。今のプログラムでは、そのようなモヤモヤを感じられるほどの深いつながりは作れていないのが現状です。私たちのプログラムでどこまで担うべきなのか、どうすればより日本企業のD&Iを前進させられるのか、日々問いを持ちながらプログラムの開発を続けています。

日本にいながら多文化協働が体験できる、2日間の「SHIP」も開催

直近では、2021年12月に新プログラム「SHIP」も開催します。目的はMILEと同じですが、SHIPは2日間のプログラムなので、外国人材も含めた多様な他者とコミュニケーションする楽しさによりフォーカスしています。エンターテインメント的な要素が強いプログラムです。

過去の開催時の様子

今回は「2050年のテーマパークを考えよう」をテーマに、ビジネスパーソンや留学生をはじめ多様なバックグラウンドの参加者が集まり、ワークショップに参加してもらいます。

前回から引き続き、京セラみなとみらいリサーチセンターと、世界最大級の屋内型ミニチュア・テーマパーク「スモールワールズ」を運営する株式会社SMALL WORLDSから、開催協力としてサポートを受けています。

一般的にオープンイノベーションは社外との共創を指す場合が多いですが、その本質は「違う文化を持った人とのコラボレーション」にあります。外国人材との交流は、そのための絶好の機会になるはずです。

An-Nahalでは、MILEやSHIPのさらなる改良、そしてD&Iの推進に向けて、今後もチャレンジを続けていきます。インターンシップをはじめ採用も強化しているので、もし興味のある人がいれば、気軽に声をかけてください。

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