余った企業の災害備蓄品、寄付のプラットフォームでモノと思いを循環させる:Stockbase・関芳実、菊原美里

株式会社StockBase代表取締役の関芳実さん(写真左)と取締役の菊原美里さん(右)

いつ災害が起こるかわからない現代、防災食品の市場規模は拡大を続けています。調査[1]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC094CG0Z00C21A7000000/によると、2021年には、東日本大震災があった2011年比でおよそ1.8倍の236億円に上るとの試算です。

企業でも災害時用の備蓄食などを用意しておくことが増えています。

しかし例えば食料品の場合、使われないまま賞味期限を迎えることもあるでしょう。

このように食品をはじめとした企業の災害備蓄品の“出口”に目を向け、使われなかった備蓄食とそれを必要とする団体をマッチングする事業「StockBase」を運営しているのが、株式会社StockBaseです。

代表取締役の関芳実(せき・よしみ)さんと取締役の菊原美里(きくはら・みさと)さんは、同社の経営者でありながら、横浜市立大学に通う学生でもあります。

「モノと思いを循環させ、豊かさを分かちあえる社会へ」と話すお2人はなぜ「災害備蓄品」に目をつけたのでしょうか。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

負荷が大きかった「寄付」の選択、StockBaseが間に立ってコスト軽減

災害備蓄品のマッチング——。

一般的にはあまり馴染みのないStockBaseの事業を、まずは2人が説明してくれました。

関芳実:StockBaseは、食品をはじめとした災害備蓄品を持つ企業と、それを受け取りたい団体をマッチングするプラットフォームです。

特に食品の場合、賞味期限が迫ると、必ず処理が必要となります。廃棄や社内配布、寄付といった選択肢がありますが、いずれにしても手間や費用コストがかかります。特に寄付の場合は賞味期限を確認をした上で、期限までに受け取ってくれる団体を探さなければいけませんし、希望する団体が見つかっても、必要な数量の調節をやりとりしたり、配送の手配をしたりと、どうしても寄付をする企業側の負担が大きくなってしまいます。

StockBaseは、そうした企業の負担を減らし、寄付を選択しやすくなるようなプラットフォームを目指しています。

菊原美里:まず企業には、寄付をしたい物品や数量、搬出希望日など必要事項をシートに記入してもらいます。それをもとに私たちが、自社のECサイト「Stockパントリー」に情報を公開。サイトに登録している受け取り団体は、通常のECサイトの要領で、必要な物品を、必要な量だけ選んで注文できる仕組みです。

登録企業が利用できるECサイト「Stockパントリー」。ダンボール1箱単位から注文できる。

Stockパントリー上で受け取り団体とのマッチングができたら、私たちが配送手配までを代行します。企業は搬出日に倉庫で立ち会いをするだけで良いため、従来の寄付にかかっていた業務負担を軽減できます。

配送費は企業側に負担してもらいますが、StockBaseではできる限り寄付元の企業から近い場所でのマッチングをしているので、配送費も安く抑えることが可能なのです。

森ビルは14.1トン、富士通エフサスは3.9トン——大手企業を中心にマッチング実績も

2021年4月に法人を設立したばかりの同社ですが、すでに大手企業の利用実績もあります。

六本木ヒルズを運営する森ビル株式会社は14.1トン、実におよそ4万8000食もの備蓄食を、StockBaseを通じて受け取り団体に届けました。また、株式会社富士通エフサスも、3.9トン(6780食)を寄付しました。

こうした実績を積み上げる中で、立ち上げ当初に想定していた以上のニーズを感じるといいます。

関:物品を必要とする受け取り団体の開拓を進めたところ、さまざまなニーズに気づくことができました。

食支援の団体や子ども食堂などはもちろん、備蓄の水を引き取って熱中症対策をしたいという建設会社やマラソン大会を運営する会社もありました。

菊原:企業側の負担を減らすことはもちろん、受け取り団体側の選択肢を広げることも私たちが力を入れているところです。

従来のような企業との直接のやり取りの場合、企業から寄付の申し出があっても、なかなかお互いのニーズにマッチしない状況がありました。

大量に物品が余っている企業としては、手間を減らすために、できる限り1つの寄付先に多くの物品を受け取ってもらいたいと考えます。一方の受け取り団体としては、寄付は必要な量だけで良いわけです。「全部は受け入れられないけど、必要な量だけ欲しい」と思っていても、寄付を受ける側としての心理的な負い目もあってか、なかなか交渉がしにくいといった問題も起こっていました。

StockBaseは、必要なタイミングで、必要な量だけ選んで注文できる点が大きなメリットの1つです。

原点は「余ったカレンダー」、捨てるつもりが高齢者に大人気

災害備蓄品の保存は、数多くの社員を抱える大企業を中心に進んでいますが、その存在を知らない人も多いかもしれません。学生である関さんと菊原さんにとっては、なおさらそれを見聞きする機会はあまりなかったでしょう。

いったい何から着想を得て、この事業を思いついたのでしょうか。

菊原:StockBaseを立ち上げたきっかけは、企業で余っているカレンダーを高齢者施設に届けるプロジェクトに参加したことです。

ノベルティとして制作した物や他社から営業の際にもらったものなど、大量に捨てられてしまうだけのカレンダーが、高齢者の方にはとても人気だったのです。結局、運び入れた800点のうち、1ヶ月で600点を受け取ってもらうことができました。

これは大きな発見でした。「誰かにとって不要なものは、他の誰かにとって必要なものかもしれない」ということに気づきがあり、大学の「起業プランニング論」の授業でアイデアをブラッシュアップしていきました。捨てられて無駄になってしまうものを、必要とする人に循環させるサービスを作りたいという想いで授業を通じてプロジェクトを進めました。これがStockBaseの前身となっています。

大量のカレンダーを高齢者施設に届けた

:私たちを含めた5人のグループでアイデアを固め、最終的には3つのビジネスプランコンテストで入賞することができました。

その後、授業も終わるということで、このプランを実際に事業化するのか、それともここで区切りをつけて就活するのか、選択を迫られました。それぞれ考え、最終的に私と菊原の思いが重なったため、3月から休学をして事業に専念することを決めたのです。

菊原:2人とも、起業をしたいという意識はまったくありませんでした。でも、食べるものに困っている人がいる一方で、備蓄品という食べられずに捨てられるものがある。たまたま見つけてしまったこの課題から目をそらすことができなかったのです。

寄付を普通の選択にしたい、モノと思いが循環する社会へ

創業から半年を迎えたStockBase。現在は、日々の営業や資料作成などと並行して、会社としての最終的なゴールやKPIを検討しているところだと言います。

この事業の先に、お2人はどんな未来を描いているのでしょうか。

関:今は、そもそも寄付という選択があまり一般的にはなっていません。実際にヒアリングをしていると、やはり寄付をする側がいろいろと手配をしなくてはならないため、そのコストがネックになっているように感じます。

SDGsの重要性やフードロスの問題が叫ばれている今の時代、寄付をしたいと思う人の方が多いと思います。そんな時に簡単に「だったら必要な人にあげよう」と選択できるような、そしてモノと思いが循環するような社会になるように、私たちも役割を担っていきたいと思っています。

菊原:また、備蓄品や寄付に対するイメージを変えることも私たちがすべきことの1つだと考えています。備蓄品や寄付というと、使わないもの、不要なものが対象になるため、受け取り手に「これをもらっている自分は貧困なんだ」と感じさせてしまう構造でもあると思っています。

もしかすると、備蓄食がもっと美味しくなれば、誰もが負い目を感じず心地よく食べられるかもしれません。StockBaseでも備蓄食のアレンジレシピを公開するなど、こうした意識を変える取り組みも実施しています。

災害備蓄品は、もちろん使わずに済むのが何よりです。でも、あくまで最終的には食べること、使うことを前提として備蓄できるようなスキームと意識を作り出せたらと将来像を描いています。

私たちが間に入ることで、モノと思いが循環し、少しでも生活が豊かになればと思っています。

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